辛夷其ノ壱 総論編

こぶしファクトリーの1stアルバムは、辛夷其ノ壱という漢字多めの硬いのタイトルの表記といい、弓道をテーマにしたジャケットといい、日本原産の辛夷の花がグループ名の由来であるこぶしファクトリーならではの、「和」「古風」「日本的情緒」といったあたりのキーワードがコンセプトとして感じられるアルバムとなりました。

思えばデビュー曲である『ドスコイ!ケンキョにダイタン』は日本の国技である相撲がテーマになった曲でしたし、日本の春を象徴する桜をテーマにした『桜ナイトフィーバー』、応援団風衣装、振り付けを取り入れた『押忍!こぶし魂』など既発シングル曲たちも、前述にあげたコンセプトを感じられる曲だったので、もうこれはデビューから一貫したものだったと考えてよさそうです。

アルバム新曲群のなかで最もそういったコンセプトが色濃く出ている曲は星部ショウ作詞曲のフォークソング『残心』『辛夷の花』の二曲でしょう。

『残心』は弓道に打ち込む先輩への憧れを歌った青春ソングですが、今時の女の子の青春という雰囲気よりは、どこか古風なたたずまいを感じさせますし、『辛夷の花』のAメロは、字余りフォークソング風でありながら、どこか演歌、民謡的な雰囲気をあわせ持っていて、日本的情緒を感じさせます。

どちらの曲も、このアルバムのコンセプトをより強固にする役割を担っている曲であることは間違いないでしょう。

それ以外の曲では『懸命ブルース』『TEKI』のロック曲は、硬派であるがゆえ、コンセプトから大きく外れているようには聞こえず、整合性はきちんと感じられるものになってるかなと思います。

異質なのはキュートなポップロック風『未熟半熟トロトロ』と、抜けのいい爽快な『GO TO THE TOP!!』ですが、雰囲気を壊すことなく良いアクセントになってます。

むしろ『ラーメン大好き小泉さんの唄』『オラはにんきもの』のシングル二曲はその企画物としての色の濃さが悪い意味でちょっと浮いてしまっていて蛇足かな?という気がしました。

あとは『サバイバー』『念には念』とインディーズ時代の音源をあえていれた意図もよくわからないところですね。せめて念には念は念入りVerを入れて欲しかったかな?

ハロプロはトリプルA面シングルが今、スタンダードな形態になってますが、アルバムを作る際に、表題曲だからといって、すべてシングル曲を収録するべきなのかということについては考える余地はあると思いますね。

まっ、そういう蛇足ともいえる曲もあって、とっ散らかった印象もあるにはあるのですが、最終的にはこのアルバム、すごく感動できます!

それは一曲目が『急がば回れ』で、ラストが『辛夷の花』という構成のせいです!いや、おかげです!

急がば回れ』は、オープニングを飾るロックナンバーでありながら、このアルバムの中で、簡単に言ってしまえば、最も暗く沈んだ雰囲気の曲です。

<ナゼ、独りぼっち 悩み疲れ グルグル 疑問文 回る 今 答えのない 道を進む>

<ナゼ、生まれてきて 此処にいるの? 果てしない荒野に ひとり>

などと苦悩や孤独感が歌われています。

はたしてこれは何を表現したものでしょうか?

自分はこれを、ハロプロ研修生、ナイスガールトレイ二ーとしてすごした、こぶしメンバーたちの長く苦しい、先の見えない下積み時代を表現したものではないかと考えます。

デビューするまでに要した長い道のりを急がば回れと遠回りしてきたと表現しているのだと思います。

つまりこれはオープニングの曲でありながら、こぶしファクトリーの歴史が始まる前段階、前章を歌った曲なのです。

そして、遠回りして歩いてきた道の先でたどり着いた境地を歌ったのが『辛夷の花』なのではないでしょうか。

この曲で歌われているのはアイドルとしての覚悟、悲壮にも思えるほどのアイドルとしての役割を全うしようという決意です。それを辛夷の花に重ねながら・・・。

<誰も皆笑うことを忘れ 誰も皆ふさぎ込んでいても 私たちは笑おう>

<冬のように 凍えてる 人々の心に 春を告げる花になろう>

アイドルに勇気づけられたことのある人ならグッとくるところではないでしょうか。

このアルバムは全体を通して自分の夢を追いかける長く苦しい下積み時代を経てデビューし、アイドルとしての役割に目覚めるという成長物語として受け取ることができるのです。

とても感動的だと思います。 もちろん楽曲そのものが持っている熱量の高さ、真摯さというものがあってのことです。 とくに『辛夷の花』はそれがあるから感動的に「響く」のです。目頭が熱い!

 

こぶしを効かせた歌唱の多用や、和、日本的な情緒をコンセプトとした楽曲。 グループ名とコンセプトが合致した、独自性と個性をここまでしっかりと確立したハロプログループって歴史上初めてじゃないかなと思うほどです。

こぶしファクトリーというグループ名が発表されたときは、違和感しかなく、正直嫌だなと拒否感がありました。

でも今は少し誇らしいです。

辛夷の花を町で見かけたらどんな気持ちになるでしょう?

春が待ち遠しいです。